3DCG制作者の中には、現実世界のカメラに関する知識を持ち合わせていない方も多くおられます。確かに 3DCG におけるカメラの設定は、他のプロセスに比べ扱うパラメーターは少なく、操作そのものの習得に時間は要しません。
しかし、カメラレンズに関する知識をもっている方とそうでない方では扱い方に大きな差が出ます。まず、現実世界でどのような事が行われているか、先ずはそこからです。
レンズを通して入った光は、銀塩カメラであればフィルム、デジタルカメラであれば CCD(CMOS) センサにより記録されます。絞り優先、シャッタースピード優先、といった言葉を聞いた事があると思いますが、絞りとはレンズを通して光が入ってくる量を調整する事で、シャッタースピードとは露光時間です。
暗いシーンでは、光の量が少ないため長く露光させる、つまりシャッタースピードを遅くする必要があります。逆に、光の量が多いと露出オーバーとなるため、露光時間(シャッタースピード)は短くする必要があります。
一眼レフのマニュアル撮影が難しい理由は、このバランスを間違えると明るすぎたり、暗すぎたり、叉はシャッタースピードが遅いと手ぶれが発生する事に起因します。
ちなみにコンパクト・カメラ(デジカメ含む)の場合、機械が自動的(プログラムAE)に適切な値に調整されます。失敗が少ない訳ですが、逆にボケ足を生かした撮影などの絵作りは行えないスナップ写真用のカメラといえます。
絞りとは、レンズとフィルムの中間にある光の進入口に設けられた開閉式のドアです。ジェームス・ボンドがこっち向いてピストル撃つ時、手前にある、あれです。このドアは中央に向かって自由に穴の大きさを変える事が出来ます。人の目で言えば瞳孔の働きをしています。
レンズを通して入ってくる光は、このドアを通って受光体(フィルムやCCD)に届きます。どの程度、穴を大きくするかで光の量を調整する訳です。光の量が多すぎても少なすぎても撮影は失敗します。露出オーバー、アンダーという言葉を聞いた事があるかもしれません。
フィルムに届く光の量の調整は絞りだけではありません。シャッター速度によってどれだけの時間、この扉を開いた状態にするかを決めます。一瞬であれば光の量は少なくなりますし、長い時間 開けておけば多くの光を集めることになります。
夜景や星空をきれいに撮影する場合、日中と異なり光の量が限られているため長時間露光させる必要がある訳です。
銀塩カメラでは高感度フィルム(ISO800など)、デジタルカメラではCCD側で電気信号を増幅させることで、高感度撮影を可能にしています。露光時間はこの受光体の特性やアパーチャ(レンズ口径)よっても変化します。(フィルムは現像するまで結果はわからないがデジタルカメラなら直ぐに確認できるメリットがある)
この絞り値、つまり開ける穴の大きさと焦点距離によって被写界深度も違ってきます。言葉で説明されるより、実際に体験してみるとよく分かります。
現実世界において手ぶれとは、前述した通りシャッター速度が遅い場合に撮影者(カメラ)側が動くことで発生します。
この現象を利用した撮影技法の一つが流し撮りです。こちらは、動く被写体を追いかける事で被写体はぶれずに、背景だけが流れているように見えます。動きを表現するための高度な撮影テクニックです。(実際に難しい)
高速道路を走る車のヘッドライトが流れる写真や、北極星を中心に星が円を描く写真を見た事があるかと思いますが、この場合は逆に、動く被写体をカメラ固定し長時間露光で撮影した結果です。
これらの現象は、モーション・ブラーとして多くの3DCGソフトウェアはサポートしています。(後述)
被写界深度とは、一言で言えばピントの合う空間の事です。
絞り値(F-Stop) の値が小さいほどドアは大きく開きピントの合う奥行きが狭くなり、ボケるエリアが広くなります。つまり、被写界深度が狭くなります。
逆に F-Stop の値が大きいとドアの穴は小さくなり、ピントの合う奥行きが広くなります。つまり、被写界深度が深くなります。
また、コンパクトカメラ(デジカメ含む)の場合、レンズ、受光面積(CCD) が小さく、物理的にレンズ焦点距離が短くなります。そのため、被写界深度を調整する自由度が殆どなくなります。一眼レフと大きく異なる点です。
次のページから順を追って 3DCG の場合について具体的に説明します。