近年、3DCG 映像はハリウッド映画だけでなく、テレビCM や TV アニメーションでも目に触れる機会も多く、三次元 コンピュータ グラフィックス に関心を持たれる方も多いのではないかと思います。
あたかも現実に存在するかのように描かれるリアルな 3DCG の世界は、一体どのようなプロセスを経て制作されているのか興味の尽きない所ではないでしょうか。
ここでは、どのようなプロセスを経てパソコン上で制作されているのか、映像作品を仕上げるまでのプロセスを一般の方にも理解し易い言葉で説明します。
ワープロソフトで文章を作成するのと同じように、三次元コンピュータ グラフィックスにも 3DCG イメージ、映像を制作するソフトウェアが存在し、様々なソフトウェアが販売されています。
3DCG ソフトウェアによって価格差や提供される機能は異なりますが、映像に仕上げるまでの作業工程、プロセスは一様に共通しています。以下に説明する作業工程を経て静止画、映像作品が生み出されています。
形状データをおこす作業、つまり造形を行う工程です。3Dモデリングを行うソフトウェアの事をモデラーといい、3Dモデラーとして独立したソフトウェアや統合型3Dソフトでは機能の一部として提供されています。
3Dソフトウェア習得において最初にあたる壁であり、経験を積む事で上達するプロセスといえます。平面であるディスプレイを通して仮想の三次元空間で立体を組立てる、造形する作業を行うため一定の空間認知能力が求められます。
参照 => 3Dモデリング 習得のポイント・アドバイス ~ 制作プロセス
モデリング工程で作成した形状データに質感を作成する工程です。質感には、マテリアル(表面材質)のパラメーター設定、画像データを貼り付けるテクスチャ・マッピングの二つの工程があります。
ガラスや金属、木材では素材の質感が異なります。3DCG においては、これらの質感は透明度、屈折率、拡散率、反射などパラメーターを調整することで表現します。確認を行うには、設定を変更する度にレンダリング(後述)を実行する必要があります。
テクスチャとは、上記マテリアル上に貼り付ける画像の事です。貼り付ける画像は、Photoshop などの画像処理ソフトを使用して作成します。
この画像は単に絵をサーフェイスに貼り付けるだけではなく、拡散率、反射率などのマテリアルのパラメーターとして利用します。例えば、数値入力だけでは全て同じ反射率になりますが、グレースケール画像を貼り付ける事で一様ではない反射率の表現が可能になります。
このグレースケール画像による率の設定は、リアルな質感を出す上で重要なポイントになります。つまり、3DCG ソフトだけでは本格的な 3DCG制作は難しいと考えてもらって差しさえありません。
3Dソフトによっては、テクスチャ・ペイント機能を提供する製品もありますが、これらは補佐的に利用されます。リアルなイメージを描くには、Photoshop のような専門ソフトウェアには敵いません。また、多くの 3Dソフトは Photosho ファイル形式を標準でサポートしています。
テクスチャ制作のアプローチは様々で、デジタルカメラやイメージ・スキャナーで取り込んだ画像を加工する場合もあれば、ペン タブレットを使用してゼロから書き起こす場合もあります。何れにしてもテクスチャ・マッピングに適した画像に加工する必要があるため、Adobe Photoshop などの画像処理ソフトウェアも必要になります。
関連 => 3DCG 制作におけるインターフェイスと入力デバイス
イメージ スキャナー、Photoshop 、ペンタブレット はテクスチャー制作のための三種の神器といって良いでしょう。デザインや建築などのプレゼンテーション用途では、テクスチャーよりもマテリアルの方が重視される分野もあります。ゲームや映画などエンターテイメント性の強いジャンルはテクスチャーは特に重要視されます。
モデリングしたオブジェクトの配置、光源の配置、光源ごとのパラメーターを与える作業を行います。例えば、光の届く距離、影の有無、などの設定を行う作業です。
どのような作品であっても、このプロセスで作品完成度の 80% が決まるといっても過言ではありません。
形状データが貧素なものであってもです。本人のデッサン力が最も問われるプロセスとなります。
三次元空間に配置された仮想のカメラを制御し、レンダリング時の構図や画角を決定します。このプロセスは 3DCG特有の知識よりも、カメラに関する知識が求められます。
3DCG に関するカメラのパラメーターや設定に関しては現実のカメラを元に設計されている事が多いからです。
被写界深度(ピントのあう空間)の表現やモーションブラーなどの現象を再現できる 3DCG ソフトもあります。
関連 => 3DCG カメラによる映像表現と学習アドバイス
レンダリングは計算によってサーフィエス(面)や質感を求める工程です。設定されたパラメータに基きイメージをソフトウェアが描画します。3DCG 制作プロセスの中で最もコンピュータ(ハードウェア)に負荷の掛かる工程です。
計算方式には様々な種類があり、最終品質を求める方式としては、スキャンライン、レイトレーシング、ラジオシティ といった計算方式が普及しています。
一般的にクオリティを求めるほど計算に時間を要します。このレンダリングは、最終のイメージ計算だけでなく、マテリアルやテクスチャの確認作業に頻繁に繰り返し行われるため、単純に 処理能力の高いパソコン(CPU) ほど制作効率は高くなります。
特に映像分野では 1秒間に 30枚ものレンダリング・イメージが必要であり、3DCG 映像制作コストを引き上げる大きな要因の一つになっています。
アニメ制作現場 では、レンダリング・イメージをセル画調にして 3DCG を活用しています。この計算はフォトリアル・レンダリング程、レンダリング(計算)・コストを要しません。
作成したオブジェクト、シーンに動きをつける工程です。3DCG における動きの表現には、キーフレーム入力(手打ち)によるものと計算によって求めるものがあります。
キーフレームとは時間軸に打つマーカーのようなものです。3DCG に限らずコンピュータ上の時間軸の表現は、左から右へ進めば時間は経過する事を意味します。例えば、A地点、B地点があると仮定します。
A地点にあったオブジェクトを 10秒後に針を進めた状態で B地点へ移動させキーフレームを打ち込みます。するとオブジェクトは、A地点から B地点へ10秒かけて移動するアニメーションが出来上がります。つまり、A地点とB地点の間は補完されることになります。
リアルな動きを表現するには、加速、減速を適切に設定する必要もあります。
このようなキーフレーム入力による作業を、手付け、手打ち、などと表現されます
3DCG アニメーションの最も基本的な手法です。
3DCG ソフトウェアが何らかのアルゴリズム、計算によって求めるモーションです。どのような機能がサポートされているかは 3DCG ソフトウェアによって大きな開きがあります。
キャラクターアニメーションにおいて、作業効率を軽減するために考えられた手法で、先端を動かすだけで、親が追随します。親である全てのオブジェクトに対してキーフレームを打たなくても自動的に動きます。
映像制作に関する工程です。飛び散る火花や水滴、竜巻などの自然現象など手動で作成困難なモーションは 3DCG ソフトウェアがサポートする パーティクル システム を使用して作成します。
パーティクルとは粒子の事であり、エミッタ―と呼ばれる粒子発生オブジェクトから粒子を放出します。放出される粒子量から、重力、風向き、反発、摩擦係数 といったパラメーターを与えてパーティクルに動きを付けます。
基本的にキーフレームによるモーションコントロールを行わなず、動きは全てパラメーターを調整する事で行います。
粒子に対してマテリアル、テクスチャ、ボリュームオブジェクト適用する事で、炎や煙などを表現したり、オブジェクトを適用することで群集アニメーションにも応用されます。
上の図は、エミッタ―から下方向へパーティクルを発生させ、パーティクルに枯葉のオブジェクトを適用した例です。風を与えれば、枯葉が舞い上がります。このようなモーションはキーフレーム入力では不可能に近い表現です。
パラメーターの調整にかかっている為、トライ アンド エラー の作業となります。
これらの機能は、ミドルクラス、ハイエンドクラスの 3DCG ソフトウェアがサポートしています。エントリークラスのソフトウェアの中では CARRARA (カーララ) がサポートしています。
オブジェクト同士が衝突するモーションを物理計算により求めるアニメーションです。衝突する側、される側、それぞれに係数を入力して試行錯誤の作業となります。その代わり、ボーリングのピンが倒れるアニメーションなど複雑なアニメーションをリアルに再現する事が出来ます。
この他にもクロス(布)の表現、髪の毛の動きを物理計算により求める事が出来る 3DCG ソフトや拡張プラグインなど存在します。
パーティクルや物理計算はハリウッド映画でもよく利用されます。物理計算は、レンダリングと同様、パソコンに高い処理能力を要求します。 これもハイエンドクラスの3D グラフィックソフトに搭載される機能ですが、LightWave 3D のように12万円台のソフトウェアでも標準でサポートする製品もあります。
モデリングの段階からモーションを想定して制作する必要があります。その一つが、キャラクターアニメーション時に必要となるボーン(骨)のセットアップです。ソフトウェアによってはスケルトンと呼ぶ製品もあります。
このボーンが仕込まれたオブジェクトは変形が可能になります。一つのボーンに対してどの程度、影響するのか定義する必要があり、これはウエイトマップを作成する事で定義します。
上図は 色によって一つのボーンが変形に与える影響を視覚的に表しています。場所によって変形に適したポリゴン数も必要となるのでモデリングと密接に関係しています。経験が必要となるプロセスと言えます。
アニメーションを計算式によって自動化を図るのに利用します。例えば、自転車が走るアニメーションでは、車体フレームの進行方向に応じて車輪やペダルが自動的に回転すると便利です。移動をとめれば自動的に車輪やペダルも止まることになります。
エクスプレッションを活用したモーション制御は、モーション制作の生産性を飛躍的に向上させる事が出来ます。これらの機能、柔軟性は提供する 3Dソフトによって異なります。ミドルクラス以上の統合型3Dソフトウェアはインターフェイスを提供しています。
ここまでは 3DCG ソフトウェアの基本的な制作工程ですが、これらの工程を経て作られる映像は、部品の一つに過ぎません。絵コンテやワークフロー沿って作成された3DCG映像を一本の動画に編集する必要があります。
3DCG ではレンダリング・コストの高い煙や霧などのボリューム系の処理やパーティクルの特殊効果などの多くは映像編集ソフトウェア側で作成して合成したり、複雑なシーンは背景と手前のシーンを別々に作成し映像編集ソフト側で合成するのが一般的です。つまり、全ての効果を一本の 3DCG ソフトウェアで制作する事は稀です。
3DCG 映像に関する授業を行う教育機関では、このような映像編集ツールに関する授業も平行して行われます。エフェクト関連では、After Effects が業界御用達ですが単純に一本のムービーにするなら家庭向けの映像編集ツールで事足ります。
モデリング、アニメーション、レンダリングなど一連の機能を一つのアプリケーションで提供する 3Dソフトを統合型といい、主要3DCGソフトの中では最も多いタイプです。
3DCG 制作において、ここで説明した制作プロセスは一様に共通しており、提供されるインターフェイスもこれらの制作プロセスごとに整理されています。初心者やこれから 3DCG 制作に取り組もうと考えている方は、これらの基本的な制作プロセスを意識して取り組まれると飲み込みも早いのではないかと思います。
簡単ではありますが、3DCGの基本的な制作プロセスを説明するとこんな所です。映像プロダクションでは全てのプロセスを一人の人間が行うという事の方が稀で、それぞれの工程に専門家が配属されています。
小規模プロダクションや学校での制作実習においては、これらの工程をすべて一人で制作する事もあります。現実の世界を模倣する3DCGの世界は、一般的なグラフィックソフトウェアとは比較にならない程、習得に時間を要します。
役者、舞台演出、カメラマン、照明、監督、全てを自分で行うわけですから、映像まで仕上げるには途方もない時間と労力を要する事は容易に想像できると思います。その原動力となるのが作品に対する思い入れと 3DCGへの好奇心ではないでしょうか。
次のページからは、それぞれのプロセスごとの習得のアドバイスと共に、もう少し具体的に説明します。