長年 3DCG ソフトウェア習得のための指導を行ってきた経験がありますが、実際に一眼レフやビデオカメラを使用した撮影経験のある方と、そうでない方が3DCG 制作に取り組んだ場合、根本的に違うと感じる事があります。
ある学生に、実際のカメラで近くからこのタバコを撮影した場合と、少しはなれてレンズによるズームで撮影した場合、どのような違いがあるか?とたずねた事があります。ただ大きくなるだけという予想通りの回答でした。
現実世界で上空から被写体に接近する映像を作ると、いったいどうやって撮影したんだろう と驚きの目で見られます。ところが 3DCG に関しては視点(カメラ)は簡単に移動する事ができます。(それが面白い所でもあり、見る人に飽きられる要素でもあるのですが)
3DCGカメラを単焦点レンズとして扱うか、ズームレンズとして扱うかで、違った映像表現になるため、映像制作のテーマや内容によっては重要な要素になります。例えば被写体に少し寄りたい場合、単純な視点移動よりも焦点距離を動かすほうが表現として理にかなっている場合があります。
先ほどの回答ですが、レンズ・ズームで被写体に寄った場合、画角(パース)は緩やかに変化します。ただ、大きくなるという発想では、おそらくカメラ(視点)を移動させる以外に発想は膨らまないでしょう。
文章や口頭で説明しても、なかなか理解してもらえませんでした。実際のカメラの特性を知っておく事は、映像制作でリアリティーを求める上でも重要且つ基本的な要素であり、表現の幅を広げる可能性があります。
最も分かりやすい所では画角(パース)の強弱が見る人に与える印象が挙げられます。同じ直方体であるタバコと建築物では実際のスケールが異なります。
ズームレンズで考えた場合、タバコは広角にしなくてもフレームに収まります。ところが建物をフレームに収めようとすると広角にする必要があります。
もし巨大なビルのパースが弱かった(上図)としたらどうでしょうか? 実際にズームレンズを装着したカメラを使用した経験のない方でも、それは遠くから見ているものだと認識します。特にストーリー展開の中では今見ている位置は大きな意味を持ちます。
3DCG においては、ズームだろうが広角だろうが数値入力一つで無尽蔵に変化しますし、カメラ(視点)そのものが上空 1000m まで飛び上がるのも簡単です。それゆえ、初心者ほどカメラが見る人に与える影響を軽視する傾向があります。
言葉で説明されるより、一眼レフカメラのファインダーを覗く方が直ぐに理解できます。一眼レフであれば古いフィルム・カメラでも結構ですのでお父さんが持っていれば借りてみて下さい。マニュアルや 3DCG に関する書籍よりもより多くのヒントが得られる筈です。
一眼レフは二焦点カメラと違い、レンズを通した像を直接目で見ることが出来ます。絞りやピントを調整してみると良く分かります。ファインダーを除くとレンズを通した外の世界を見る事が出来ますのでイマジネーションも沸いてくる筈です。(これだけでも価値がある)
コンパクト・デジタルカメラでも、レンズを通してCCDに投影された像を液晶画面で確認できますが、レンズに関する確認は出来ません。
デジタル一眼レフの低価格化も進んでおり、3DCG においてもIBLに活用する事も出来ますので、是非カメラも趣味の一つに加えて下さい。3DCG ソフトウェアを使用する業界に限らずクリエイティブな業界を目指すのであれば決して損はしません。
もし、3DCG をやっていて新しいデジタルカメラの購入予定があるのであれば、普及価格帯にまで落ちたデジタル一眼レフの購入も検討して見て下さい。
商品撮影をテーマに別のコンテンツでもデジタル一眼レフについて説明しています。デジタル一眼に関心のある方は少し覗いて見てください。
参照 => デジタル一眼レフ メーカー毎の特色・比較
3DCG 制作に関連するハードウェアとして、ページ右側のリンク先でも説明しています。