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Adobe RGB 広色域ディスプレイ ~ 陥り易い落とし穴

3DCG制作者のための液晶ディスプレイ選び

最近、NANAO の 普及モデル FlexScan シリーズでも Adobe RGB カバー率を唱う広色域 液晶ディスプレイがラインナップされており、従来、DTP向けだったハードウェア・キャリブレート可能な液晶ディスプレイが手の届きやすい価格帯まで落ちてきました。

NANAO だけでなく、三菱や HP、DELL などの総合メーカーからも相次いで発売されていますが、これらのディスプレイをカラーマネジメントに対する認識不足から誤った使い方をされている方も多いように思います。

例えばこれ http://ascii.jp/elem/000/000/443/443992/

広色域を唱う液晶ディスプレイはAdobe RGB 色空間を前提としたカラーマッチング、印刷を前提にしており Web 制作や CG映像、CADの制作現場では sRGB 色空間が前提となります。乱暴に言えば最終出力媒体によって適切なディスプレイは異なります。

漠然と広色域パネルだから画質、品質に優れており高性能だという認識は誤りです。

このようなカラーマネジメントを前提とした広色域 液晶ディスプレイが求められる分野は現状では商業印刷(DTP)やAdobeRGBやRAWで記録可能なデジタル一眼レフで撮影した写真など印刷する用途に限られます。つまり、最終的な出力媒体は紙です。

この目的では一貫したカラーマネジメント環境を整える必要があり、使用するOSやソフトウェアの対応状況、仕組みに対する知識が別に必要となります。

これに対し3DCG、映像やWebコンテンツ制作の場合、sRGB 色空間を前提に制作する事が多いため、色彩を扱う業務で広色域 Adobe RGB 前提の液晶ディスプレイの使い方を誤るとプロジェクト間での意思疎通や納品時にトラブルとなる事が考えられます。

本稿の目的で液晶ディスプレイを選ぶ場合、避けて通れないポイントになりますので、回り道になりますが色空間について少しお話しします。しばらくおつきあい下さい。

色空間(カラースペース)について.

カラーマネジメントの目的は異なる出力環境、媒体で色を一致させる事にあります。具体的には異なるディスプレイ間で色彩を統一したり、ディスプレイで表示される写真とプリンターで印刷される結果を一致させる事を目的とします。

これを実現するために基準値となる色空間(カラースペース)が定義されている訳ですが、色空間には複数の規格が存在し、印刷(DTP)や放送(DTV)など分野、最終的に出力される媒体によって普及(使用)している色空間は異なります。

具体的には色を座標で、つまり数値化して管理する事で実現しています。機器により色の出力特性は異なるため、一致するように色座標を変換することでディスプレイとプリンタに出力される色を近づける事が可能になります。それぞれの機器毎に定義された※1色空間情報(ファイル)が必要で、また、その※2仲介を行なう仕組みが必要になります。この一貫した色の管理をカラーマネジメントと詠んでいます。

※1 メーカーから機種専用の情報として提供される場合もあれば、Windows の場合 sRGB を前提とし特に指定する必要がない場合もあります。(特に拘りのない安価な液晶ディスプレイはメーカーから提供される事はないと思う)

※2 Macintosh は OS で仲介を行なう仕組みを持ち設定が可能ですが、Windows XP 以前の OS はこのような仕組みを持ちません。色空間が指定されていない画像や機器は sRGB として扱われています。

sRGB と Adobe RGB

デジタル一眼レフの低価格化や、6色、7色インクなど高い色再現可能なインクジェット カラー(RGB) プリンタの普及もあって、ハイアマチュアな写真愛好家にとっては広色域ディスプレイの低価格化、普及はうれしい限りですが色空間に対する認識がないとトラブルの元になります。

sRGB はマイクロソフト主導のもと策定されたカラープロファイル(色空間)で最も広く利用されている色空間といっても過言ではありません。あなたが今見ているブラウザで表示されるこのページも sRGB 色空間に基づいて表示されている事と思います。

sRGB はCRTディスプレイ(6500K)を基準としており、異なるディスプレイ間の色の統一や、当時一般に普及しつつあったカラープリンターやデジタルカメラなどの周辺機器の色彩を統一する事を目的としていました。

インターネットが上陸する以前、CD-ROMコンテンツが主流だった頃はほんとに酷かった

しかし CRTディスプレイ出力を前提に策定された sRGB の色空間では、デジタルカメラが記録出来る色域やプリンタで再現出来る色の全てをカバー出来ない(狭い)ため、本来、印刷されるべき多くの色情報を切り捨てて印刷する事になります。

そのため DTPやフォトレタッチなど印刷との高度なマッチングが求められる分野(※特にこの分野は Macintoshの独壇場)では、印刷により適した広い色空間を持つ Adobe RGB が広く普及しています。

広色域ディスプレイが Adobe RGB を基準としていること、デジタル一眼レフの殆どの機種が sRGB と Adobe RGB で記録出来るのはこのためです。

※ Adobe 自体、DTP、出版分野で Macintosh と共に成長してきた歴史がある

Adobe RGB は sRGB よりも広い色空間をカバーしますが印刷を前提にした拡張であり sRGB との整合性は考慮されていません。

そのためAdobe RGB 色空間を持つ画像をそのまま sRGB 色空間が指定されているディスプレイで表示すると発色が異なって見えます。(くすんだ色で表示されるが単に表示できない色があるためだけではない)

この現象はディスプレイが基準とする色空間と画像に埋め込まれている色空間が異なるために起こります。また画像を開くソフトウェアやOSによってもカラーマネジメントの対応に違いがあるため、この事が初心者にとって更に分り難い問題にしています。

例えばデジタル一眼レフのAdobe RGB で撮影された写真をレタッチする際、PhotoShop では画像に色空間情報が含まれる場合、ディスプレイ(sRGB)にあった色空間に一時的に変換する事が出来ます。つまりソフトウェア内でカラーマッチングが行なわれます。

PhotoShop の場合、画像で指定された色空間とディスプレイに定義されている色空間が異なる場合、作業用色空間として何を使うか警告が出ます。作業用、つまりレッタチ等の作業時にどの色空間を使って表示させるか、事前に指定する事も出来ます。作業者が色空間に対する認識を持っている事を前提にしている事が分ります。

これによりユーザーは意識する事なくレタッチに集中できますが、カラーマネジメントに対応していないアプリケーションで開いた場合、写真に使われる色空間と表示させる色空間が不一致となるため、異なった発色で表示される事になります。(誤った色彩)

環境、具体的にはOS、アプリケーション、ハードウェアの違いやワークフローによっては色空間を意識しなくても良いケース、正しく表示される場合とそうでないケースがあるので現状では色彩に携わる制作者はその分野で標準とされる色空間を常に意識する必要があります。

参考 => Windows Vistaの新色管理システム「WCS」とは

良くある例はデジタル一眼で撮影された画像とプリントのマッチング、その画像をWebサイトで公開するケースです。検索してみるとデジタル一眼レフで撮影した画像をネットで公開する際に色が異なって見えるという話を良く目にします。これに対しコンパクトデジカメではこのような話はあまり聞きません。

sRGB sYCC

現在販売されいてる全てのデジタルカメラは Exif2.2 準拠のJPEG画像を記録出来るため sRGB の色空間を超える情報(sYCC)を記録しています。上の写真は、左からコンパクト デジタルカメラで撮影した写真をそれぞれ以下の条件でシミュレートした結果です。

  • (左)sRGB 環境でそのまま開いた場合 (Exif 2.2 に含まれる色空間を使わない)
  • (中)sRGB で表示可能な sYCC色空間を表示した場合(カットされる色がある)
  • (右)sYCCに記録されている色情報をsRGB へ丸め込んだ場合(疑似表現)

sYCC 自体、sRGB を延長したAdobe RGB よりも広い空間が定義されているため、印刷を目的に拡張された Adobe RGB と違い大きな色彩の変化は起きません。(真ん中の画像がそれを示している。右へ行く程、鮮やかになる)

何も考えずに印刷すれば左の結果に、6色インクなどの再現性の高いプリンタでExif プリントを行なえば右に近いプリント結果が得られるという事になります。(実際にはディスプレイに表示しきれない色も印刷される)

デジタルカメラ、プリンターに付属の印刷ソフトを使えば手軽に印刷できます。

また、このサンプル(右)で示したように sRGB へマッピングし直すことで Exif 2.2 準拠のデジカメで撮影した写真(sYCC)を擬似的に sRGB ディスプレイに表示させる事も出来ます。(ただし、sRGB を超える色域は表示されない上、情報もない)

このように Adobe RGB や RAW で記録出来るデジタル一眼レフ カメラや Adobe RGB 広色域ディスプレイがなければデジタルカメラで撮影した本来の色がプリントで再現出来ない訳ではありません。

Adobe RGB 色空間のマッチングはなるべく印刷結果と近い状態でディスプレイに表示し、高度なレタッチ作業を行ないたい用途で初めて意味をなします。確認のために何度も印刷をやり直す必要がなくなるため生産性を飛躍的に向上させる事が出来る訳です。

広色域液晶ディスプレイの多くがハードウェア キャリブレートに対応しているのもマッチング精度をより高める事を目的としているためです。

別の見方をすれば 3色インクのインクジェットプリンターしか持っていない場合、これらの広色域ディスプレイを購入しても宝の持ち腐れ、絵に描いた餅、という事になります。果たしてこのような広色域ディスプレイが自分に必要なのかを考える必要があります。

Adobe RGB 相当の広色域 液晶ディスプレイが、中価格帯まで落ちてきたのはここ最近の流れであり、とにもかくにも広色域は高画質、という誤解を招く広告には問題があると思います。

多い誤解

sRGB 表示のディスプレイで Adobe RGB 色空間を持つ画像をマッチングを行なわずに開いた場合、異なった色彩で表示されます。同様に Adobe RGB 広色域ディスプレイで sRGB 色空間を持つ画像を見た場合、明らかに異なった鮮やかな発色で表示される事になります。何れも使用する色空間の不一致に起因する問題です。

ところが 「流石、広色域ディスプレイだ、鮮やかだ」 と、これを本来の色だと勘違いしている方をよく見かけます。sRGB をそのまま Adobe RGB で表示させるとズレが生じるため、おかしな色あいで表示される事になります。

使用する OS や設定、アプリケーション、によって異なりますが、現状では正しい色彩で表示されていない事の方が多いと考えられます。

sRGB を基準としている分野で Adobe RGB 相当の広色域表示で作業を行えば問題が生じる事はいうまでもなく、Web や CG映像制作ではプロジェクト間で意思の疎通がとれなかったり、納品時にトラブルとなる可能性があります。

制作者という立場で考えると、制作物が実際に表示される色空間で作業を進めた方が確実であり、本稿では sRGB 液晶ディスプレイを選ぶという事になります。

曖昧なカテゴリーと節操のないキャッチコピー

最近、このようなカラーマッチングを唱う広色域ディスプレイがあふれており、ネットでの評価を見ていても “プロ用ディスプレイ=広色域=高画質=グラフィック” という認識で購入、誤った使い方をされている方も多いように思います。

ただ漠然と「プロはみんな広色域を使う」という認識を持つ人が増えるとプロ用は広色域、それ以外は TN パネル、みたいな意味不明な二極化が起きてしまうといくらこちらが正しく色彩デザインを行なってもクライアント側で正しく表示されていない、というケースも起こりえるからです。(メーカーは売れないものは作らなくなるので)

個人所有の環境でカラーマネジメント環境を整える場合は自由ですが、カラーマネジメントの仕組みが確立されていない、普及していない現状で色彩を扱う仕事に携わる場合、主に DTP 以外の分野では sRGB を基準としている従来の液晶ディスプレイを使用する必要があります。

このようなAdobe RGB カバー率を唱う広色域ディスプレイは、最近では多くの機種が sRGB への切換え機能を提供していますが、機種やメーカーにより考え方は全く異なっている上に補助的な意味合いが強く、sRGB がメインとなる分野、制作で広色域ディスプレイを選ぶ場合は重要なポイントになります。(詳しくは後述)


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