本稿では 3DCG / CAD ユーザー向けのビデオカードを選ぶ具体的な方法を示すことを目的にしていますが、その前に一般的に多いと思われる誤解や疑問点について補足しておきます。
本稿は複数ページから構成されており、誤認識を招き易い内容となっています。検索エンジンから来られた方は、右メニュー "はじめに(コンテンツの概要)" を参照して下さい。
ネットで検索してみると3DCGソフトとビデオカードの相性問題や GeForce などのゲーム用のビデオカードは使えないのか?という疑問を持っている方が多いように思いましたので、この点について少し補足しておきます。
参照 => ビデオカードとソフトウェアの相性について -OKWave
参照 => ELSA GLADIAC 988 GTS 640MB (PCIExp 640MB) のクチコミ
ビデオカードにおけるオーバーレイとは、ディスプレイ上に複数のレイヤを配置する事で高度なオペレーション、インターフェイスを提供する技術です。
特に 3DCG や CAD ソフトは、一般的なグラフィックソフトとは比較にならない程、多くの機能を扱うため、ミドルクラス以上のソフトウェアの中には、ハードウェア・オーバーレイを前提に設計されているものがあります。
最近では MediaPlayer や RealPlayer など動画再生用途にも利用されており、これらの用途でもPC構成によってはオーバーレイ関連の不具合が出る場合もあります。
ミドルクラス以上の 3DCG や CAD ソフトの致命的なビデオカード絡みのトラブルの多くは、ハードウェア・オーバーレイに起因する事が多く、具体的には以下のような障害が発生します。
私の経験では、これらの症例は規則性があり確実に発生します。ハードウェア・オーバーレイをハードウェア(ビデオカード)側がサポートしていれば発生しないという訳でもなく、3DCG や CAD に最適化、チューニングが行えるドライバが提供されていなければ問題の解決は難しく、必ず解決出来るという訳でもありません。
ハイエンドの中では Maya 、特に SOFTIMAGEやXSI は影響が大きい
単にドライバの不具合、3Dソフトウェア側の不具合で発生する場合もあります。一般の方には判断が難しいかも知れません。Quadro や FireGL など 3DCG / CAD 用のビデオカードであれば、ドライバ側の設定で回避できる可能性もありますが、ゲーム用のビデオカードではそれが出来ません。
nVIDIA はゲーム用の GPU である GeForce で有名な GPU チップベンダーです。TNT 2までは ジオメトリ計算はCPU側で行っていましたが、GeForce では GPU側で処理するようになり劇的に3D性能が向上したため、本格的な 3DCG / CAD用 GPU として Quadro (クアドロ)が登場します。(GeForce = Quadro という図式)
3Dゲームでは、3D-API に Direct 3D (Windowsのみ) が利用されますが、こちらはインターフェイスとしての機能よりも、描画速度に重点が置かれたハードウェア設計、ドライバチューニングとなっており、インターフェイスとしての機能が重視される 3DCG/CAD 用途で使用される OpenGL とは根本的に異なるものです。
OpenGL そのものが 3DCG/CAD 向けという話ではありません。Mac / Windows / Unix / OS2 で利用可能なクロスプラットフォームな API で、OpenGL のゲームも存在します。Macintosh で 3Dゲームが限られるのは OpenGL を使用するゲームが少ないためです。(過去に独自の3D-APIを持っていたがOS-X以降切り捨てた)
クロスプラットフォームである OpenGL は CAD や 3DCG ソフトで利用されている 3D-API であり、3DCG / CAD 用のビデオカードは、描画速度が求められるゲーム用のビデオカードと異なりインターフェイスとしての役割に重点が置かれたハードウェア・ドライバ設計が行われています。(ハードウェア・オーバーレイもその一つ)
確かにゲーム用のビデオカードでも OpenGL のアクセラレーションに対応してますが、これは、OpenGL を使用するゲームのためのものであって、3DCG / CAD に対応しているという意味ではありません。
Windows VISTA 環境では、※Direct 3D をインターフェイスに取り込んだ兼ね合いでオーバーレイに関する仕様が廃止されたため、3DCG ソフトウェアにおいて不具合が発生する可能性が高いと思われます。
※VISTA のエアログラスの事です。ベーシックに切り替えてオーバーレイを有効にする事で回避できる可能性はあります。
実際に2007年末現在も ミドルクラス以上の3DCGソフトウェアは Windows VISTA に関してはサポート外となっており情報も殆ど提供されていません。 いずれにしても無駄に資源を浪費する Windows VISTA の現状では 3DCG 制作用途には適しません。
VISTA への移行が進まない理由は次期OSの存在なんだそうです。Microsoft にはなんの落ち度もないとも。だめだこりゃ・・・
GeForce や RADEON など一般的なビデオカードではハードウェアによるオーバーレイをサポートしていないため、例えば頂点が選択できない、変更が反映されないといったモデリングや操作等、作業上の不具合が発生する場合があります。
また、ゲーム用のビデオカードでドライバを最新に更新することで直ったという例もありますが、これはドライバ(ソフトウェア)側でオーバーレイをサポートしたために解消したと考えられます。(実際に私も過去に何度か経験した)
この場合、頂点編集作業が行えても、ハードウェア・オーバーレイをサポートするビデオカードに比べ、操作は重くソフトウェア本来の性能を発揮する事は出来ません。(例えば、頂点を選択する度に CPU の負荷率が極端に上がるなどの挙動不審)
GeForce の Quadro化を勧めている方もいますが、例えOpenGLのベンチマークが伸びたとしても、これらの問題を回避出来るかは甚だ疑問です。というかこのようなリスクは、手間、使えなかった、あるいは後々問題が発生した場合に振り回される手間を考えれば、初心者に対してとてもお勧めできる内容ではありません。
OpenGL のベンチマーク結果が良いほど 3DCG / CAD 制作に適したビデオカードという訳ではありません。ベンチマークはあくまで OpenGL の描画速度に関してです。
ネットで得られる殆どの情報は一般ユーザーによるもので単にベンチマーク結果だけで評価しています。そのため、誤解されている方が非常に多いように思います。
SPECvieperf は 3DCG/CAD アプリケーションに特化したOpenGL ベンチマークツールであり一般の方にとって無縁のツールです。ゲーム用のビデオカードでこのようなツールを使うから誤解が広がるのだと思います。(Quakeだけにして下さい)
OpenGLのバージョンよりも致命的な影響を受けるのは、ハードウェア・オーバーレイに関する問題ですので、FireGL や Quadro といった 3DCG/CAD 用のビデオカードを選択するのが最も賢明な選択です。(それでも不具合が発生することもある)
OpenGL に関してはこちらのページでもう少し詳しく説明します。
特に店員さんやベンチマーク関連から知識を得ている方など 3DCG/CAD 未経験者のアドバイスには注意する必要があると思います。(速度だけで判断する人が多い) ゲームとの役割の違いを認識した上でインターフェイスとしての安定性で選ぶ必要があります。
Shade や CARRARA、Animation Master といったホビーユースをターゲットとした統合型 3DCG ソフトの場合、RADEON や GeForce などのゲームを対象とした GPU を搭載するビデオカードで問題のないケースもあります。
安定動作のため 3DCG/CAD 向けのビデオカードが要求される主要 3DCG ソフトウェアは、ハイエンドでは MAYA 、XSI 、3dsMax 、ミドルクラスでは LightWave3D、CINEMA4D などが挙げられます。
Lightwave3D、CINEMA4D は GeForce でも不具合が生じないケースもあります。しかし、仕事で使用する場合、複数の3DCGソフトを使用しなければならない状況になることもあり、Quadro や FireGL などの 3DCG/CAD 向けのビデオカードを選択すると守備範囲が広くなり、後々後悔する事もなくなります。
そもそも ハードウェア、OS をまとめて提供する Apple コンピューターは、Windows に比べ ビデオカードの選択肢が限られており、本格的な3DCG制作環境は Windows (PC)環境の方が適しています。
見方を変えれば Macintosh 版の 3DCG ソフトはビデオカードの相性問題といった柵が少ないと言え、初心者や3Dソフトを限定できるユーザーにとっては逆にメリットと捕らえる事も出来ます。
Macintosh - OSX 上で動作する本格的な3DCG制作に適した ミドルクラス以上の統合型3DCGソフトには LightWave 3D、CINEMA 4D 、MAYA があります。
どちらにしろ、このページで紹介している内容に関連する技術情報はメーカーがしっかり公表しろよと言いたいです。Quadro であっても FireGL であっても 3DCG ソフトウェアの動作保証ではない事(あくまで推奨)に留意する必要があります。