現在、HP / DELL など大手低価格PCメーカーが手がける 3DCGワークステーションが Xeon CPU に移行した事もあり、前のページに引き続き Xeon CPU について説明します。CPU の特徴を理解する事で目的にあった選択が出来る様になります。
.現在、Intel の CPU は特殊なIA64を除くと一般市場向けのCore i、業務用のXeon(ジーオン)の 2つのブランドが市場に流通しています。AMD で Core i に該当するのが Phenom II、Xeon に該当するのがOpteron(オプテロン)になります。
Xeon のブランド名は、Pentium (ペンティアム)と同じく伝統ある Intel CPU のブランド名ですが、一般市場向けCPU(Core 2 Duo Celeron)のようにマルチコア用のブランド名はなく、全てモデルナンバーとコードネームで識別されています。
一般市場向け CPU と業務用の Xeon、どちらも同じ X86 CPU であり、アーキテクチャは共通のCPUですが、一般市場、業務用として以下の部分で差別化されてきた経緯があります。いずれも高い処理能力が求められる業務分野がターゲットとしています。
高負荷業務分野 = 信頼性 安定性
ただし、CPU そのものの信頼性が高いという話ではありません。
Xeon は基本的にマルチCPU構成を前提としたブランドになります。
Pentium II /Celeron はデュアルCPU構成が可能でしたが、Pentium III 以降の Celeron 含む一般市場向けのCPUはマルチCPU構成を出来ないようにする事でXeonと差別化されていました。
グラフィックスの分野で最も CPU パワーを必要とする 3DCG においては、OpenGL ビデオカードとデュアルCPU構成のワークステーションがメーカーや代理店のオリジナルPCとして販売されており、50万~100万円コースでした。
マルチコアCPUが登場する以前、CPUに高い処理能力が求められる業務分野では複数のCPUで構成された高価なPCが使われており、3Dワークステーションは趣味で購入するには非常に敷居の高いものでした。
これらはマルチコアCPUが登場する以前の話であり、現在は、1CPU構成を前提にしたマルチコア Xeon もラインナップされています。
.L1/L2 キャッシュ容量を増やしCPUとメモリ間の通信速度を高める事で一般向けのCPUと差別化している点が挙げられます。現在の Core i7、Nehalem 世代の Xeon では、QPI の転送速度で差別化されています。
"メモリ性能律速型アプリケーション" で恩恵の大きいこのアプローチは、3Dレンダリング時間の短縮に対しては恩恵がなく、どちらかと言えば上記、マルチCPU構成を目的に Xeon CPU を選んでいました。
."Xeon" と "一般向けCPU" そのものに安定性の違いがある訳ではありません。正確にはチップセット周辺機器が安定性を重視したものになっているため、Xeon を搭載したPCはシステム全体の信頼性が高い、ということになります。
一般市場向けCPUを搭載可能な安定性、拡張性の高いワークステーション向けマザーボードも販売されており、コストパフォーマンスの高い 3DCGワークステーションを手ごろな価格で組むことも可能でしたが、Core i7 以降は事情が変わってしまいました。
先のページで触れましたが、残念なことに Core i7 以降の一般向けCPUではECCメモリをノンサポートにするという暴挙に出たため、Intel の一般向けCPUで安定性、信頼性を求めることは難しくなっています。
Intel Core i7 に対してアーキテクチャ上、該当する Xeon は Nehalem マイクロアーキテクチャ世代(3000 系) の CPU になります。ワークステーションに位置づけられるモデルナンバーの主な特徴は以下の通りです。
デュアルCPU(CPU×2個)構成を前提としたCPUであり、、ワークステーション、中規模サーバー向けCPUカテゴリに分類されています。 (DP(デュアルプロセッサ)版ともいわれる)
マルチコアCPUが当たり前となった現在、CPU×2個構成は、常時使用するワークステーションとしては消費電力が高く環境性能、ランニングコストが極めて悪く、本稿では推奨していません。(消費電力も半端ではありません)
常時作業する3DCGワークステーションにマルチコア×2CPU構成はランニングコストが高く、マルチスレッドレンダリングで得られる生産性を考慮しても無駄が多く適しません。最終のレンダリングサーバー向けの構成と考えたほうがよいです。
5500番台の Nehalem-EP世代は 1CPU 構成も可能でその場合、安価な Unbuffered / Unbuffered ECC メモリが利用可能になっています。ただし、Xeon の優位性である信頼性はなくなるため、あまり意味がありません。
また、5500番台(Nehalem-EP) の高クロックモデルは QPI が引き上げられており、CPU、メモリ間の性能が重視されています。演算能力が求められるグラフィックス分野においては恩恵が少なく、サーバー用途を視野に入れたモデルナンバーです。
シングルCPU(CPU×1個)構成を前提としたCPUであり、ワークステーション、小規模サーバー向けCPUのカテゴリに分類されています。 (UP(ユニプロセッサ)版ともいわれる)
このような 1CPU構成を前提とした Xeon が登場した背景には、マルチコアCPU の登場により、小規模サーバーやワークステーション用途において、必ずしも複数CPUを搭載したシステムは必要ないという判断があったためだと思われます。
TDP130WクラスのCPUを二つ搭載したデュアルCPU の場合、ピーク時の消費電力は600~700W にも達します。
本稿で推奨する HTT対応4コアCPU(仮想8スレッド) 1CPU 構成のワークステーションの場合、Xeon W3500番台 / X3400番台が該当します。ワークステーション用途でもっともバランスが取れている構成になります。
.いずれも ECCメモリサポートの有無、信頼性の差で、動作クロック周波数が同じであれば性能に大きな違いはありません。
.Xeon 5500番台はデュアルCPUが前提ですが、Core i7 9xx 搭載可能な X58チップセットマザー(1スロットマザー)でも動きます。ただし、ECCメモリをサポートして Xeon をサポートするマザーボードは限られます。
TDP130W - 45nm - 4コア(HT8)- Soket LGA1366 | ||||
---|---|---|---|---|
コードネーム | ECC | CPU数 | Chipset | ブランド / 該当モデルナンバー |
Bloomfield | × | 1 | X58 | Core i7 920/930/940/950/960 2.677GHz~3.2GHz |
Nehalem-WS | ○ | 1 | X58 | Xeon 3500番台 2.4GHz~3.33GHz |
2 | X58(UP) i5520/i5500 |
Xeon 5500番台 2.4GHz~3.33GHz |
TDP130W クラスの CPU であるため、ワークステーション用途には抵抗があります。
.6コアCPUの関係は以下の様になります。プロセスルール 32nm ですが、TDP130W クラスの CPU であるため、ワークステーション用途には抵抗があります。また 6コアCPUはコストパフォーマンスが極めて悪くなります。
TDP130W - 32nm - 6コア(HT12)- Soket LGA1366 | ||||
---|---|---|---|---|
コードネーム | ECC | CPU数 | Chipset | ブランド / 該当モデルナンバー |
Gulftown | × | 1 | X58 | Core i7 980X Extreme Edition 3.33GHz |
Westmere-WS | ○ | 1 | X58 | Xeon 3600番台 3.33GHz |
TDP95W クラスのCPUであり、ワークステーション用途において現状では最もバランスのとれたCPUになります。以下のCPUは、いずれも3DCG制作において恩恵の大きい Hyper-Threading Technology に対応している 4コアCPU になります。
TDP95W - 45nm - 4コア(HT8)- Soket LGA1156 | ||||
---|---|---|---|---|
コードネーム | ECC | CPU数 | Chipset | ブランド / 該当モデルナンバー |
Lynnfield | × | 1 | P55 / H57 / H55 |
Core i7 800番台 2.533GHz~3.066GHz |
Lynnfield | ○ | 1 | P55 i3400 i3420 i3450 |
Xeon 3400番台 2.4GHz~3.33GHz P55で搭載可能なマザボが少ない |
上記表で比較した CPU は、従来の Xeon の特徴であった CPU・メモリ レイテンシ関連の性能は同じで、Core i7 とアーキテクチャはほぼ共通しています。つまり、1CPU、1コアあたりの性能は、クロック周波数が同じであれば同じ性能を意味します。
Core i7 をはじめとする一般向けCPUでは、これまでサポートしていた ECCメモリを CPU 側でサポートしなくなったため、ECCメモリのサポートの有無が両者の違いということになります。
Xeon で安価な Unbuffered Non-ECC メモリを利用できるケースもありますが、唯一の差別化である信頼性は得られないため、それなら最初から Core i7 を選択したほうが安価にシステムが組めることになります。
ここで紹介した Xeon と Core i7 は、いずれもソケット形状が同じですが、Core i7/5 や i3 を搭載可能なマザーボードに Xeon を装着できるかはチップセットやマザーボード(BIOS)の対応状況によって違いがあります。
Xeon を搭載可能なマザーボードは ECCメモリをサポートしている安定性重視のワークステーション向けのマザーボードである事が殆どで、Core i7 からオーバークロックは当然のように扱うようになった一般向けのマザーボードとは性質が異なります。
つまり、Xeon を搭載したワークステーションを自作する場合は、システムを構成するメモリ、マザーボードは安定性が重視されたパーツで構成される事になるため、相対的にシステム全体の信頼性が高くなるという特徴があります。
メーカー製ワークステーションの場合は、定格動作での利用が大前提ですが、同じ事がいえます。仮にこのようなシステムで OC を行った場合、OC を前提に設計されているマザーボードより安定して動作させる事は難しいと考えて差しさえありません。