説明してきたようにECCメモリの使用を前提とした場合、Xeon CPU を搭載したワークステーションが必要となりますが、システム価格は高くなります。
かといって価格を抑えたXeon ワークステーションではクロック数が低く生産性に難があります。ここからは Core i シリーズの CPU を中心に 3DCG制作に適した CPU を考察します。
AMD と Intel の一般市場向けCPUを比較した場合、1コアあたりのレンダリング パフォーマンスは Intel の方が1.5倍程優れています。実際、Intel の HTT4コアと AMD の6コアを比較した場合、Intel CPU の方がレンダリング性能が優れています。
一方、AMD のメリットとしては ECCメモリは規制されていないため、マザーボードが対応していれば、信頼性を重視したシステムを低コストで構築出来る点が挙げられます。特に最新の TDP95W クラスのAMD 6コアCPU は検討に十分値します。
残念ながら、DELL や HP などの3DCGワークステーションの殆どが Intel Xeon 搭載機へ逆戻りしており、AMD CPU を搭載した BTO を提供するPCパーツショップも見あたらないため、現状では※自作以外に選択肢がないというのが実情です。
※ AMD CPU で自作する場合、比較的入手し易いマザーボードでは ASUS がおすすめです。マザーボードを手がけるメーカーの中では昔から安価なマザーボードにもECCメモリサポートの製品が多いためです。初心者から上級者まで幅広いユーザーにお勧め出来ます。ただ Intel CPUマザーには WSモデルは以前から存在していますが、現在 AMD 向けの WS向けマザーボードは用意されていません。(拡張性に差)
3DCG制作を前提にした場合、ここで説明したように Core i 世代の CPU では4コア1CPU構成がバランスが良く適しています。
このように仮定すると極めてコストパフォーマンスが低く3DCG制作においては恩恵の少ない Extream シリーズを除外すると、Core i5 700番台、Core i7 800番台、Core i7 900番台の何れかが4コアCPUに該当します。
Core i7はハイエンド・ハイミドル、Core i5は ミドルクラスに位置づけられる複数のモデルナンバーの CPU がラインナップされています。
.Core i5は一般市場(メインストリーム)向け CPU においてミドルクラスに位置づけられるCPU になります。
Core i5 には 2009年末に登場した コードネーム Lynnfield (リンフィールド) と 2010年に登場した GPU内蔵の Clarkdale(クラークデール)の2種類が存在しており、Clarkdale は2コアCPUになります。CPU のソケット形状は同じです。
CPU | コア数 | HTT | TDP | ソケット | メモリ |
---|---|---|---|---|---|
Core i5 7xx (Lynnfield) |
4 | × | 95W | LGA1156(H) | DDR3 1333 デュアルチャンネル |
Core i5 6xx (Clarkdale) |
2 & GPU |
× | 95W | LGA1156(H) | DDR3 1333 デュアルチャンネル |
2009年末に登場した第二世代の Core i CPU になります。従来の TDP130W から TDP95W へ大きく引き下げられ、ソケット形状も LGA1156 へ変更されています。DDR3-1333 とメモリクロックはあがりましたが、DDR3へ生産がシフトした事、2枚差しのデュアルチャンネルとなった事もシステム価格を引き下げる要因になっています。
Core i5 700番台は、ミドルクラスに位置づけられるCPUで、4コアCPUとなります。3DCGワークステーションとして視野に入るCPUですが、後述するCore i7 8xx - Lynnfieldと異なり HTTをサポートしないため魅力薄となります。また、TurboBoost 時の伸び率も低めに設定されています。
.GPU と CPU をワンパッケージにした Intel 最初の CPUになります。従来のグラフィック統合チップセットと同様、ビデオカードを必要としない CPU です。対応マザーボードに備え付けのビデオポートからディスプレイと接続します。(詳しくは後述)
以前にも説明したように統合チップセットのグラフィックス(GPU)機能は、3DCG制作において障害となる事が多く適しません。同様の理由から、Clarkdale で内蔵された GPU も 3DCG制作 において適しません。
本格的な 3DCG制作を考えた場合、論外となる CPU になります。来年登場する Sandy Bridge も同様です。
.Core i7は一般市場(メインストリーム)向け CPU においてハイエンドに位置づけられるCPU ですが、ハイミドルというハイエンドとミドルクラスの中間に位置づけられる従来のCore i7 とはソケット形状の異なる Core i7 も存在します。
CPU | コア数 | HTT | TDP | ソケット | メモリ |
---|---|---|---|---|---|
Core i7 9xx (Bloomfield) |
4 | ○ | 130W | LGA1366(B) | DDR3 1066 トリプルチャンネル |
Core i7 8xx (Lynnfield) |
4 | ○ | 95W | LGA1156(H) | DDR3 1333 デュアルチャンネル |
Core i7 9xx (Gulftown) |
6 | ○ | 130W | LGA1366(B) | DDR3 1066 トリプルチャンネル |
該当する Xeon は以下で説明しています。
参照 => Core i7 と 同一アーキテクチャの Xeonモデルナンバー
2008年初頭、最初に登場した第一世代の Core i シリーズで当初からハイエンドに位置づけられています。DDR3 メモリをサポートした最初の製品で、DDR3-1066 を3枚差し(トリプルチャンネル)で使用します。
当初、DDR3メモリは高価な上、3枚同時にメモリが必要なことからコストパフォーマンスは高くありませんでした。その上、Core 2 世代の TDP130W は据え置かれ、ECCメモリの選択肢がなくなった事から個人的には全く関心が持てませんでした。
.前述した Core i5 7xx - Lynnfield と同じ4コアCPUですが、HTTをサポートしている点が異なります。HTT については後述しますが、3Dレンダリングにおいては恩恵が大きいため、消費電力、コストパフォーマンスの面で最も3DCG制作に適したCPUです。
1コア負荷時のTurboBoostによる動作クロックの伸び率は、前述した Bloomfield や Core i5 7xx - Lynnfield よりも高く、単一スレッドしか使用しない殆どのアプリケーションでは性能が高くなります。特に、3DCGレンダラによっては全ての処理がマルチスレッドに対応しているとは限らないため、3DCG制作において適している訳です。
最初に登場した Core i7 870 は、Core i7 9xx とクロックあたりの性能差がなく、かなり高めの価格設定でしたが、2010年7月に半値に価格改定されたため、コストパフォーマンスで飛び抜けた存在になりました。
詳しくは後述しますが、Intel の 2万~3万円台の普及価格帯CPUとしては、初めてHTTをサポートしたCPUとなりました。
.上記CPUはプロセスルール 45nm 世代であるのに対して Gulftown は 32nm プロセスで製造された6コアCPUになります。32nm と微細化が進みましたが、コア数が増えた分、TDP は従来の 130W と据え置きとなっています。
ワークステーション用途を想定した場合、TDP130W クラスの CPU は避けたいという理由と、4コアCPUに比べ1.4倍の 3Dレンダリング性能を得るために3倍以上の投資が必要な事から、現段階では Intel の6コアCPUは推奨していません。
Bloomfield と同じ LGA1366 ソケットの CPU であり、LGA1366 はハイエンド、中でも Gulftown は最高峰という位置づけになります。
2011年に登場する 32nm プロセスの GPU 付きのミドルクラス、エントリークラス向け Sandy Bridge 世代の CPU が登場しても、しばらくは Gulftown がハイエンド向けCPUの位置づけになり、ソケット LGA1366 の延命につながっています。
.Hyper-Threading Technology (HTT)とは、一つのコアを仮想的に二つのコアに見立てる事でコア性能を極限まで引き出す Intelプロセッサの技術です。(AMD にHTTに相当する機能はない)
HTT 自体は目新しい技術ではなく、コンシューマー向け CPU においては極めてコストパフォーマンスの低い一部の CPU(Pentium 4 Extream Editon等)にしか搭載されていませんでした。
HTTはマルチスレッド処理、中でも浮動小数演算処理において高い効果がありますが、殆どのゲームがシングルスレッドで動作する事を考えれば、ゲーム ユーザーからみれば無用の長物といって良い機能です。
HTT対応のCPUで3Dレンダリング(並列計算)を実行した場合、HTT の "あり" と "なし" では 2~3割程度、計算時間が短縮出来る事は昔から知られています。特に浮動小数演算の並列処理においては、コア数が多いCPU程、HTTの恩恵も大きくなります。
反面、サーバー用途など複数のプロセスを同時実行する整数演算処理においては性能が低下するという話はよく聞きましたがその真意は知りません。3DCG制作においては、整数演算処理よりも浮動小数演算能力の優れたCPUの方が向いています。
従来、一般市場向け Intel CPU ではコストパフォーマンスの極めて低い コアなゲーマー向けCPU Extream シリーズがサポートしており、3DCG制作においては、HTT による 2,3割の性能向上のために投資する必要性はありませんでした。
ちなみにゲーム用途で HTT の恩恵は殆どありません。
3DCG制作を前提とした場合、消費電力、パワーバランスの面で TDP95W - Lynnfield の高クロックモデルが最も適しており、中でも HTT に対応ているCore i7 8xxは極めてコストパフォーマンスの高い CPU となります。
Core i7 870が登場した当初は、同一クロックの Core i7 9xx - Bloomfield と性能面で大した差がなかったため、6万円近い高めの価格設定でしたが、約1年後には半値近くも値下げされたため、普及価格帯の CPU では初めてHTTをサポートするCPUになっています。
3DCG制作において 4コアという理由でCore i5 7xxを選ぶのであれば、TurboBoost 時のシングルスレッド性能が高く、HTTをサポートするCore i7 8xxを選んだ方が賢い選択、という事になります。