前のページで説明した法泉(ノーマル)マップ、変異(ディスプレイスメント)マップは、画像主体であり、形状を修正するには基本的に画像処理ソフトウェア側で行う必要があります。これを3Dモデラー側でリアルタイムに行うモデリング手法が注目されています。
3DCG ソフトが提供する変異(ディスプレイスメント)マップは画像が主体であるため、形状の修正作業は画像処理ソフト側で行う必要があります。そのため、地形や隕石など大雑把な用途にしか利用されませんでした。
ZBrush という 3Dモデラーは3Dブラシを使用して直接、変異マップ(画像)にアプローチします。そのため、リアルタイムに形状の変化を確認する事が可能です。一般的な頂点編集によるモデリングはマウスを用いますが、このスカルプト・モデリングでは筆圧検知が可能なペンタブレットを利用してペイント感覚で3Dモデリングを行います。
何よりもZBrushに驚かされるのは、高性能なビデオカードを必要とせず、数百万のポリゴンをリアルタイムで確認する事が出来る驚異的なパフォーマンスを持っている点です。以下の動画を見てみるとよく分かります。
映画 ロード・オブ・ザ・リングのクリチャ制作に使用され脚光を浴びたZBrushは既にスタンダードの地位を確立しているといっても過言ではなく、ILM をはじめとするハリウッド映画制作現場において必須のツールとなっています。
従来の頂点編集ではなく、ペンタブレットを使用してペイント感覚で3Dモデリングを行うため、自身を 2.5次元モデラーと表現していました。複雑な形状でないキャラクター等の有機形状モデリングにおいても高い生産性を持ちます。
いくら3Dモデラーを使えても、同時に絵を描く力がなければ 「見る人を納得させるだけのモデリングは適わない」 事を再認識させてくれるツールと言えます。
XSI や 3dsMax、MAYA、Lightwave 3D などの主要3DCGソフトウェアは、ZBrush との連携を強化しており、ZBrush で作成したノーマルマップ(画像)を取り込むことでリアルなイメージをレンダリングする事が可能です。
ここ2、3年の流れです。(このページの執筆は 2008年1月)
また、ベースのオブジェクトを3DCGソフトウェア側を従来の頂点編集で作成しておき、モデリングを ZBrush 側で継承して行う事も可能です。(UV情報は必要)
ZBrush 自身、高性能な3Dアクセラレーターを搭載したビデオカードを必要とせず数百万ポリゴンのリアルタイム表示が可能であること、ビデオカードとの相性問題がないため、ビデオカードを選ぶ3DCGソフトウェアとの連携に優れています。
ZBrushCentral でサンプルデータが公開されています。ZBrush で作成したローポリゴンデータと変異マップ情報(画像データ)を利用してお使いの 3DCGソフトで再現できるか確認できます。ユーザーのテスト結果も報告されています。
左が元のポリゴンデータ、中央がサブディビジョンにより補完された形状、右が ZBrush のペイント機能で作成されたディスプレイスメントマップ用の画像を適用した結果です。使い慣れた3Dモデラでベースを作成し、UVマップの保存が可能なobj 形式で書き出せば変異(ディスプレイスメント)マップの仕上げを ZBrush で行う事も出来ます。
サブディビジョンは、3Dソフトウェアによってサーフェイス補完に違いはありますが、サブディビジョンに対応した3DCGソフトであれば概ね近い形状となります。投稿されている画像を見てわかるように、変異(ディスプレイスメント)マップ、法線(ノーマル)マップの扱いに違いがあります。
サブディビジョン・サーフェイスは多くのメッシュ(ポリゴン)数を必要とします。このため、レンダリングにはより多くのメモリを必要とします。分割率が低いとディスプレイスメント・マップの再現性に影響が出ます。
ZBrush は特別なハードウェアなしに数百万のポリゴンをリアルタイムに描画する驚異的な性能を持っており、他の3DCGソフトが追随する事はないと思われます。XSI や 3ds Max 、Maya、Lightwave といった主要3DCGソフトウェアも ZBrush のノーマルマップをサポートするなど連携を強化しています。
このような3Dモデリングが必要とされる分野は限られており、機能面においても住み分けが成立している感があります。ZBrush は既にスカルプト3Dモデラーとしての地位を確立したと言いましたが、このような理由が根拠になっています。
少なくとも建築や工業デザイン等のプレゼンテーション分野では必要とされない
従来の頂点編集によるモデリングはマウスを操作して行いますが、ZBrush ではペンタブレットが基本の入力デバイスになります。マウスはオン・オフのみであり、筆圧検知が可能なペンタブレットでなければ思うようにモデリング出来ません。
変異マップ情報(画像)に直接アプローチするため。(3Dブラシと呼ばれる)
ゲーム業界や映像プロダクションにおいて、ZBrush は欠かせないソフトウェアとなっており、頂点編集に変わる新しい 3Dモデリング手法としてクリエイターにとって無視できない存在となっています。
逆にプロダクト、建築等などプレゼンテーション用途においては無縁のツールといえますが、これだけ直感的に造形できるとプロダクトにおいてはデザインラフにも使えそうな気もします。
ゲーム業界、映画や映像等、VFXプロダクションなどエンターテイメント性の強い業界を目指すのであればZBrushというキーワードを覚えておくと良いかもしれません。
ZBrush 以外でスカルプト・モデリングが可能な3Dモデラ、ソフトウェアも存在します。
HEXAGON はポリゴン(サブディビジョン)ベースの安価な 3Dモデラですが、スカルプト・モデリングにも対応しています。ZBrush 程、強力ではありませんが、趣味でこの系統の作品を考えている方、既存のエントリークラスの3DCGソフトのモデラーとしてお勧めです。(CARRARA と相性が良い。インターフェイスは英語)
この価格で3Dペイント機能も有しており多彩です。左のパッケージ版は Mac / Windows のハイブリッド版で提供されます。
オープンソースのBlenderも スカルプト・モデリングに対応しています。(無料です) Blender の進化は留まることを知りません。
Blender に関しては下記リンクを参照して下さい。