先に触れましたが、WDDM と XDDM についての補足です。
Windows XP から Windows 7、Windows 8 へOSを入れ替えるにあたり、もっとも重要なポイントがグラフィックス デバイスに関することで、特に WDDM(Windows Display Driver Model)とXDDM(XP Display Driver Model) は重要なキーワードになります。
マイクロソフトが示すWindows 7 / 8の動作要件には 「WDDM ドライバ搭載の DirectX 9 グラフィックス デバイスが必要」と記載されています。
DirectX とはマイクロソフトのゲームやマルチメディア機能を実現するためのAPIの事です。元来、DirectXを利用した3Dゲームを高品質なグラフィックスで快適に遊ぶためには、DirectX をアクセラレーションするGPUを搭載したビデオカードが必要、という関係があります。
補足:本稿では3DCG制作を前提としたワークステーションを中心にPCの情報を提供していますが、この、「ゲーム」と「DirectX 3D」 の関係と同じように、「3DCG/CADソフト」と「OpenGL」 という関係があります。販売されている多くのビデオカードは DirectX、OpenGLの両方をアクセラレーションしますが、古くから実績のある業務用の3DCGソフトやCADソフトはAPIにOpenGLを採用しています。また、これらの表示をハードウェアでアクセラレーションして高速化させるために、OpenGLに主眼をおいたビデオカード(Quadro / FirePro)、PCゲームに主眼を置いたビデオカード(GeForce / RADEON) というシリーズのGPUを搭載したビデオカードが販売されています。前者は業務用途ということでアプリケーションでの安定動作に主眼が置かれ高価であり、後者はWindows で動作するPCゲームユーザーを対象としたビデオカードです。このようなハードウェアが、Windows VISTA 以降のWindows で求められるようになった、という認識で良いと思います。
この3Dゲームとビデオカードの関係と同様に、Windows VISTA以降のWindows OSでは、オペレーションに DirectX を取り入れる事により、CPUに負担を掛けず、表示性能を高速且つ、リッチで派手なものにしようという方向性で開発されています。
XPの後継 Windows VISTA は、要求するグラフィックス性能のハードルが高く、買い替えを前提としたOSだと批判を浴び、マイクロソフトが望まないXPの延命に貢献することになるわけですが、重くなったVISTAの軽量化を目指して改良されたのが Windows 7 になります。
つまり、 Windows VISTA 以降の Windows では、グラフィックデバイスの管理を効率的に行うためのWDDMに準拠したグラフィックス デバイスが必要、ハードウェアベンダーからドライバが提供されている必要がある、ということを「マイクロソフトが示す動作要件」は意味しています。
現在、Windows 7 は VISTAと同様、高いグラフィックス性能を要求する3D主体の Aero となっていますが、WDDM(Windows Display Driver Model)のバージョンも1.1となってパフォーマンスやビデオメモリの管理面において改善が図られています。また、これらを無効にして従来の XDDM(XP Display Driver Model)もサポートしています。
つまり、Aeroを無向にし、従来のグラフィックス・デバイスとしてつかう下地が Windows 7には用意されていますが、Windows 8には その仕組みがありません。この点が、XP が搭載されたパソコンのOSを入れ替える場合で、Windows 7 と Windows 8 どちらを選択するかの重要な判断ポイントになります。
捕捉:VISTAの影響からか、よくWindows 7 で Aeroを無向にしたほうが軽量、という認識が広がっているのですが、これらは誤った認識です。中途半場に3D性能が低く、割り当てられるビデオメモリが少ない場合などはAeroを無向にした方が良いケースは考えられますが、十分な3D処理能力、ビデオメモリを持つビデオカードを搭載したPCの場合は、むしろAeroを有効にした報がOSのオペレーションは軽快になります。Aeroを無向にした方が軽いという認識は、一概に全てのPCで当てはまる事ではありません。また、3DCGやCAD制作においては、ビデオメモリの奪い合いとなり、当初のWDDMではドライバ回りで不具合が発生する事が多く、その回避策としてAeroを無向にするという対策方法も考えられました。このような3DCGワークステーションの多くは、Windows VISTAの採用を見送った、文字通り、仕事では使えないWindows 史上、買ってはいけない最悪のOSになった背景要因となっていると個人的には認識しています。
これに対し、最新の Windows 8の場合は、これまでのAero の、2D、ベクトルグラフィックスが主体で、適切なドライバが組み込まれていればGPUの処理性能が低くても、動作が引っかかること無くサクサク動作するという特徴があります。
すなわちWDDMに準拠したグラフィックス デバイスが必要である点は Windows 7 と Windows 8は同じでも、GPUに求められる性能要件、ハードルが Windows VISTAや7よりも、Windows 8の方が大幅に低いといえると思います。
つまり、GPUの性能が低くても、Windows 8 は描画に高い性能を要求しないので、非常に軽快にナビゲーションのアニメーション表示が可能です。Windows 8 が可来る感じる最も大きな要因です。
補足:ちなみに WDDMに準拠したグラフィックスドライバの場合は、ドライバーをアップデートしても、これまで必要だったOSの再起動の必要がなくドライバの更新が適用されるなどの特徴があります。
また、Windows 8 では求められるGPU性能のハードルが低くなっている反面、Windows 7でサポートされていたXDDMが Windows 8ではサポートされていないため、PCに搭載されているグラフィックスドライバを提供するベンダー、PCを販売したメーカーがWDDMに準拠したグラフィックス・ドライバを提供しない限り、本来のGPUの性能が得られない可能性があります。
具体的には、OS標準のベーシックドライバとして認識された状態で、この場合でも、Aeroや DWMは動作するように設計されていますが、ソフトウェアでレンダリングを行うため、表示能力も著しく低いものになります。
WDDMでは、ビデオメモリに128MB以上、あるいはノートPCなどに多いチップセット統合型グラフィックスの場合は、メインメモリに128MB以上の割り当てが可能である事が条件となっており、フルカラー表示ができないグラフィックス能力の低いものは使用できません。
このようなケースにグラフィックス デバイスが該当する場合は、デスクトップPCの場合は前述したWindows 8の性能要求を満たすビデオカードに交換することで対応できます。
それが出来ないノートPCの場合は、本稿の主旨から外れてしまい残念ですが、早めにWindows7を購入して、Aero抜きで延命するか、あるいはそのPCには軽量なLinuxマシンとしての余生を送ってもらい、最も価格の安いOS込みのPCに買い換える選択肢が現実味を帯びてきます。
補足:ちなみに、現在販売されているノートパソコンで最も価格の安い最低性能のPCですら、そのXPが搭載されたパソコンよりはるかに高性能である事は間違いありません。OSに1.6万円、場合によっては、そのOS代に加えメモリ増設に数万円の投資をさらに考えるケースであれば、OS込みで5万円前後の最も価格の安いパソコンに買い換えるのも十分、現実的な選択肢となります。
ただ、ここで紹介しているような元々、用途が限定されるネットブックなどの比較的新しいXP搭載Eeepcでは、むしろ従来のXPよりも、電源回りで使い勝手が大幅に改善されたので、後ほどレビューしますが、ケースによっては購入当初より、Windows 8を導入した方が使い勝手が良くなる場合もあります。
これらはここで紹介したWDDM準拠のWindows 8で動作するドライバが提供されているか否かに掛かっているような気がします。せっかくOSが軽いのですから、ベンダーがグラフィックスドライバを提供すれば、十分、古い機械も使えるパフォーマンスがあるのですから、ドライバを提供して頂きたいところです。
が、現在は絶対的な性能よりも、消費電力あたりの性能に優れたCPU、ハードウェアの設計が行われているので、これらの最新ハードウェアの特性と新OSの親和性を考えると、消費電力に重点を置いて新しいパソコンに買い換えを検討するのも、十分、一考の余地はあると思います。
前述したように、Windows 7 は Aero を使用しない XP従来の XDDM準拠のグラフィックス ドライバでも動作する下地があるため、その手段が用意されていないXDDM非対応の Windows 8 に比べるとグラフィックス・デバイス関連の鬼門度は低いと考えられます。
2014年6月現在 販売されている Windows については前のページで説明しています。早々にWindows 9 の話が出ており、10月には Windows 7 の販売が終了する可能性もあります。
何れにせよ、サポートの切れたWindows XP が搭載されたパソコンをネットワークに接続した状態で使い続ける事は出来ない厳然たる事実があります。
今のところ、Windows 7とWindows 8の販売が併用して続いています。何不自由なく使えている従来の環境をそのまま維持するためには、どちらかのOSに入れ替える必要があることに変わりありません。
Windows 7 は Windows VISTAの改良OSの位置づけにありますが、WDDMのバージョンも上がって VISTAよりもグラフィックス周辺の問題が大幅に改善されており、また、今のところ、もっとも普及しているOSです。
加えて XDDM準拠のグラフィックスドライバを使える下地があり、商用アプリケーションが動作保証しているOSがWindows 8より多い、先に出ている分、ネットで得られる情報が多い、XPからの移行を考えた場合、アプリケーションの互換性の問題がWindows 8より少ない、などのメリットが挙げられます。
補足:あくまで正式サポートを表明しているかどうかの話であって、実際にアプリケーションが動作するかは別です。多くは Windows 8 で動作しますが、仮に何か不具合が出ても、「我々がそのアプリケーションを開発していたときにはなかったのだから、サポート外ですよ。」ということです。もし、動作に支障がないのであれば、Windows 8 の方が Windows 7よりも求められるGPU性能の敷居が低いので、私なら問題なく動作することが確認できれば Windows 8 を迷わずチョイスします。
逆にWindows 8のアドバンテージは、最新のPCでなくても、動作条件さえ整っていれば、XPを搭載していた処理能力の低いネットブッククラスのPCでも軽快に動作する、電力管理が強化されているといった体感面でWindows 7に比べると大きなアドバンテージがあります。
第2章では、実際に4台の素性の異なる XP搭載パソコンを入れ替えた経験を元に、Windows 8 のインターフェイスの特徴について。
つづく第3章では、もっとも Windows 8.1の特徴を伝えやすいネットブックを例に、XPからOSの入れ替えの検討段階から、実際に入れ替えるまでどのような作業が必要になるのかを紹介する予定です。